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「劉邦」読了

みなさん、こんにちは。

今回は「劉邦」を読み終えたので、レビューをお伝えしたいと思います。

でも、実は再読です。
「劉邦」は2013年7月から2015年2月まで、毎日新聞に連載されていまして、当時は毎朝読んでました。
たしかに面白かったんですが、タマに読み忘れしたり、少し前の展開を忘れちゃってたり、一話丸々が人生訓で終わってストーリー展開が全く無かったりして、若干、残念な読了感だった覚えがあります。
その後、Amazonからのメールでオススメ リストに載ってたりして、「あぁ、単行本になったんだぁ」とは思ってたんですが、一応、読んだコトのある物語りをワザワザ高額な単行本で再読するのも、なんだかなぁ?と、イマイチ食指が動きませんでした。
そんな折、いつものパターンで全国チェーンの古本屋さんで全4巻が並んでいるところを発見し、先日、読み終えた「公主帰還」といっしょに、お持ち帰りとなりました。

「劉邦」

著者 宮城谷 昌光
発行 2015年5月~7月
文庫 2018年7月10日~8月10日(文春文庫)

いまから2200年ほど前の中国、秦帝国の滅亡から漢帝国の成立目前までの激動の時代を、漢帝国初代皇帝となった劉邦(リュウ ホウ)を中心に描かれています。
では、ザックリと粗筋をご紹介。

秦代末期。
秦の始皇帝は東南方に五彩の気が立ち昇っていることを知る。
五彩とは黄,青,白,赤,黒で、それぞれ麒麟(中央),青龍(東),白虎(西),朱雀(南),玄武(北)、つまり全世界を意味し、五彩の気は全世界を総統する人物から立ち昇ると考えられていた。
五彩の気が始皇帝のあずかり知らぬ東南方から立ち昇ったとは、つまり、新勢力が勃興し秦帝国が滅亡することを意味する。
始皇帝は、方士と刺客のチームをつくり、五彩の気を立ち昇らせる人物の暗殺を謀る。
そのころ、農家の三男坊として生まれた劉邦は、跡取りになれず、地方の有力者(といえば聞こえが良いが、要するに、ほとんどヤクザ)に入り浸っていたが、縁あって亭長(国鉄駅長さん 兼 派出所警部…その実態は行政機関の末端にして、いわゆる何でも屋)になり、テキトウな日々を過ごしていた。
ある日、元は地方の有力者だったと思しき一派が政府からテロリストとして追われることとなり、この捜索に加わる命令を受ける。
夜半、捜索に加わりながらも、何とか上層部を出し抜いて、彼らを逃がすことが出来ないか?などと思案しつつ、独りで散歩に出たところを、突然、何者かに殺されそうになった。
相手は始皇帝が放った暗殺チームだった。
五彩の気を立ち昇らせているのは、そのコトに全く自覚が無い劉邦だったのだ。
これを期に、チンピラ上がりのしがない木端役人だった劉邦の運命が、47歳にしてようやく動き出す。
そして、やがては中国全土を統一することに。
ライバルは楚の名将軍の血筋を誇る項羽(コウ ウ)。
カリスマ性が高くて戦いに負けたことがなく、そのチカラは自軍の10倍を誇る秦の名将軍率いる正規軍を殲滅させるほどの、典型的な覇者。
対して劉邦は、農民上がりで戦いの進め方が特段に巧みなワケでもなく、地方の城ひとつ陥落させるのにも何度も失敗するくらい。
だがしかし、人情,義侠心のカタマリともいうべき、その人柄を知った人々は、劉邦に惚れ込み、それぞれが持てる能力を最大限に発揮させ、何度も負け戦を味わう劉邦を懸命に支えようとする。
劉邦の元には優秀な人物が集まり、世間の趨勢を味方につけ、最後には戦略的に項羽を追い詰め、ただ単に戦闘力が突出していただけの項羽を降すことになった。


楚漢戦争が題材の物語りにつき、大筋としては名作「項羽と劉邦」(司馬 遼太郎)や以前にご紹介した「群雄譚 項羽と劉邦」(津本 陽)あたりと変わるところはありません。
しかし、当作品がそこいらの楚関戦争モノとチョット違うのは、劉邦にフォーカスを当てているので、始皇帝の崩御やその後の帝国内での権力闘争(というより陰謀)、ライバルとなる項羽の動静などが、極力そぎ落とされている点です。
さらに驚くのはその展開のスピード、というかペース配分。
なんと、第1巻終了時点で未だ、劉邦が挙兵するところまでもたどり着かず、第2巻終了時点でようやく、項羽の名前がちょろりと顔を出す程度。
コレでもかと言うくらいに劉邦と部下たちの信頼関係をていねいに描写し、読む者が充分に劉邦ファンとなったところで、第3巻。
南進ルートの劉邦が北進ルートの項羽よりも一足先に関中(秦帝国の中心地)に進軍し、遅れてやってきた項羽との会談を行う、楚漢戦争のハイライト”鴻門の会”が第4巻の冒頭、
そして一気にクライマックス”垓下の戦い”で完結。
その後の漢帝国成立時の論功行賞や、続いて北方異民族との負け戦、次第に疑心暗鬼になって楚漢戦争中の腹心の部下だった者を誅殺する劉邦など、ドロドロの晩年についてはほとんど触れられません。
つまり、劉邦の生き様の中で、物語りとして一番オイシイ、とってもワクワクする時期だけを切り取っています。
コレが、つまんないワケが無い!

劉邦は、項羽のようなスーパーマンでもなく、能力だけで評価すると、戦略の立案や経営手腕も、もちろん個人的な武力も体力も、その部下たちの方がはるかに優秀でした。
ですので、小説の題材としては項羽や優秀な部下たちの方が、よほどエンターテインメントとして面白いモノが創りやすいだろうと思います。
対して、劉邦は華やかさが無いというか、よく負けるし、戦略で項羽を追い詰めるなんて普通だったらイヤらしい悪役がすることだし。
それでも、最後には項羽を降すことが出来た、支持してくれる優秀な人材が集結した、そこはヤッパリ、項羽のような分かりやすいヒーローでは無いけれど、「この人について行こう」と思わせるだけの魅力があったに違いありません。

随所にちりばめられた劉邦の人格についての考察なども、ほとんどチョットしたリーダーシップ論のビジネス書並にタメになって、コレがまた、娯楽である小説の中に巧みに織り込まれているというお得感。
劉邦が挙兵を決断したのが今の私と同年代だったコトを考えると、夢を感じさせるというか、組織の中にあってグダグダやってる場合じゃないゾと、励まされる思いがしました。
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ひまわりの種

Author:ひまわりの種
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